研究内容

抗菌薬耐性菌は今や全世界共通の問題です。私たちの研究室では、耐性菌の制圧を目指して、様々な観点から研究を進めています。

1.新規抗菌薬シーズの探索とターゲットの同定

天然物あるいは化合物ライブラリーから抗菌活性をもつ物質を見出し、その作用機序を明らかにします。特にこれまでの抗菌薬の作用点となっていない標的の探索を行っています。

2.消毒薬耐性機構の解明

消毒薬と抗菌薬は一見全く別物と考えられますが、消毒薬に耐性を獲得した細菌には抗菌薬にも同時に耐性となっていることがあります。しかし消毒薬耐性機構は詳細に明らかにされていません。この機構を明らかにすることにより、抗菌薬耐性と消毒薬耐性がどのように関係しているのかを明らかにしようとしています。

3.多剤耐性菌の出現機構の解明

細菌は1ケ所の突然変異で複数の抗菌薬に対しての耐性を獲得することはほとんどありません。その多くは複数の突然変異の積み重ねによって起こります。しかしその変異の順序が多剤耐性の獲得頻度に影響を与えうることがわかってきました。このような現象がなぜ起きるのかを明らかにすることで、抗菌薬の適正使用に関する知見を得て臨床現場にフィードバックしようとしています。

また抗菌薬耐性は突然変異だけではなく、他細菌から耐性遺伝子を獲得することでも起こります。しかしそれらの耐性遺伝子はどこから出現し、どこに保存されているのかはよくわかっていません。この耐性遺伝子の伝播に関する研究をインドのNICEDとの共同研究で進めています。

4.海洋性細菌の塩耐性・塩要求性機構の解明

塩(Na+)は古来より食物の保存に用いられています。Na+は細菌にとって必要不可欠なミネラルですが、過剰量のNa+は毒性を示します。すなわち細菌内のNa+濃度は極めて適切にコントロールされています。この調節機構を明らかにすることで、新たな保存剤の開発を進めています。

放線菌は, 糸状菌と類似した形態を示すグラム陽性細菌であり, 有益な活性(抗菌活性, 抗癌活性, 抗寄生虫活性, 免疫抑制活性等)を示す多種多様な二次代謝産物を生産することで知られています。これまで, 放線菌株を分離し, それらを培養することにより, 膨大な数の化合物が単離されてきましたが, 20世紀が終わりを迎える頃には, 培養法による新規化合物の単離は頭打ちとなり, 化合物探索源としての放線菌の地位は揺らいだかに見えました。しかしながら, 近年のゲノムシークエンス技術の飛躍的な向上に伴い, 多数の放線菌ゲノムが明らかにされた結果, 放線菌ゲノムには, これまで考えられていたより遥かに多く(ゲノム当たり20~30)の二次代謝産物生合成遺伝子クラスターが存在しており, それらの多くは通常の培養条件下においては, ほとんどあるいは全く発現していないことが明らかになりました。このことは, 放線菌が化合物探索源としていまだ重要であることを意味しています。このような背景の下, 私たちの研究グループは放線菌を題材とした以下の研究を実施しています。

5.ゲノムマイニングによる新規化合物の探索

放線菌のゲノム配列に基づき, 二次代謝産物の生合成遺伝子クラスターを抽出し, 異種発現等の遺伝子操作を行うことにより新規化合物を顕在化する研究に取り組んでいます。また, 顕在化した化合物の構造と機能を明らかにする研究を行っています。最近では, Streptomyces属の放線菌に加え, 希少放線菌であるActinoplanes属放線菌のゲノムマイニング研究を開始しています。

6.二次代謝産物生合成遺伝子の活性化による新規化合物の探索

薬剤耐性(例えば, rifampicin耐性)を放線菌に付与することにより, 二次代謝産物の生合成遺伝子が活性化されることが知られています。この手法を利用することにより, 放線菌から新規化合物を顕在化する研究に取り組んでおり, 顕在化した化合物の構造と機能を明らかにする研究を行っています。

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